プラグインで超スローモーションを作る!

高野光太郎 氏によるTwixtor 解説

"クリエイターズ ビュー" 今回は、映像ディレクターとして活躍される高野光太郎さんに、「 Twixtor を最大限に利用してスピードコントロールビデオを作る方法」を解説頂きました。


RE:Vision Effects 社のプラグインソフト Twixtor (ツイクスター)は、ハイスピードカメラで撮影したようなスローモーションを作成できる映像プラグインです。適用する映像の前後のフレームから、全く新しいフレームを作り出す、フレーム補間、モーフィングを行い、超スローモーション、もしくはファーストモーションを実現します。対応するホストアプリケーションは、After Effects、Final Cut Pro 6〜X、Avid、Autodesk Smoke など、幅広い選択肢が用意されています。


実際にハイスピードカメラで撮影する ことは、スケジュールや予算の面でハードルの高いものです。そのため撮影後の素材にプラグインで同様の効果を生み出すことができれば大変画期的なことかと思います。ただし、Twixtor はあくまで擬似的な効果。どんな素材でもハイスピードカメラで撮影したようなスローモーション映像が作れるという訳ではなく、素材が最適化されている場合でもやはり限界があります。


そこで、高野さんに この Twixtor で最適なスローモーションを作成するため、素材選びから、プラグインの操作方法まで、最適な選択を探って頂きました。Twixtor でスピードコントロールビデオの作成をご検討の方は、ぜひ本解説をチェック頂き、デモ版やサンプルプロジェクトをお試しください!

(1) Twixtorには、どんな素材がベストなのかを検証する

高野さんが解説で使用されている After Effects プロジェクトを配布中! Twixtor の評価用プロジェクトとして解説と合わせてご活用ください。

Twixtorの処理の原理は、2フレームから90フレームの スロー作成する場合、AフレームからBフレームまでをモーフィングすることで足りないフレームを自動で生成するというものです。つまりモーフィングに向いている素材は、写真の様にキレイに止まったクッキリした画像になります。

<シャッター1/60>
<シャッター1/1000>
破綻する動き1【ブレた映像】

Twixtor の効果がうまく掛からない素材の一つが、ブレた映像です。

Twixtor を適用する場合は、あらかじめシャッタースピードを速くして撮影した素材を用意するのがよいでしょう。

但し、シャッタースピードを速くし過ぎるとノーマルスピードではパラパラして見えてしまうので、作る映像に配慮してシャッタースピードを決めなければなりません。

破綻する動き2【背景と前景[被写体]のコントラストが少ない】

背景の街灯と被写体の服が同系色なので、モーフィングが破綻している例です。

破綻する動き3【動きがクロスする】

動きが複雑でなければマスクを使用する事で回避できる場合があります。
素材はプログレッシブを用意します。インターレース素材はあらかじめ除去が必要です。

参考:インターレース除去プラグイン
RE:Vision Effects 社 FieldsKit(フィールズキット)
Red Giant 社 Magic Bullet Frames(マジックブリット フレームズ)

(2) Twixtor の基本操作

Twixtor は、重力との関係性が大きく、速い動きの中でも重力と均衡を保った状態がうまくいきます。例えば、水の動きでも、蛇口から出る水や川や滝といった速い流れには不向きですが、下から上に動く、つまり重力と反対の向きの水の動きには、ハイスピードの効果が得られやすいです。今回のサンプル映像のように水たまりを弾く水しぶきはモーフィングとの相性が良く適している素材です。


尚、今回撮影に使用したカメラは「GoPro2」。シャッタースピードが早いのでTwixtorとの相性は抜群です。

Twixtor の適用方法

1.スローにする元素材より長い尺のコンポを作成
2.作成した新規平面レイヤーに Twixtor エフェクトを適用

3.エフェクトメニューで Color Source でスローさせる素材レイヤーを選択

4.元素材のフレームレートを指定

5.Frame Interp の種類を選択

6.Warping の種類を選択

※Frame InterpとWarpingは、結果を見ながら最適なタイプを選びます。

7.スピードのキーフレームを作成
Speed%の値が、100%がノーマルスピード。スローにするために今回は1%のキーフレームを打ちます。
映像によってスローのパーセンテージを探ることが重要です。

背景が破綻しています
マスクを作成
マスク処理(Pro版)

先ほどの映像を、よーく観ると背景の木がモーフィングで破綻しています。そこでモーフィングさせたい部分と、動かしたくない背景をマスクを使って分離します。

8.平面レイヤーにマスクを描きます。

マスクを設定
背景の破綻がなくなりました

9.エフェクトメニューで描いたマスクを設定


10.背景の破綻も無くなり、ハイスピード映像が完成!

(3) Twixtor 応用編:破綻を防ぐ!Twixtor Pro版のメリット

スタンダード版のみでは背景に破綻が発生
Pro版のマスク機能を使用して破綻を防ぐ

まずは編集で素材からスローにしたいフレームを探します。

今回は超スロー映像にしたいので、たった2フレから約3秒のハイスピード映像を作成しました。

背景と靴のモーフィングが破綻している部分を、Pro版のマスク機能を使うことによって改善できます。

上半身とシューズのマスクを設定
ベース(下半身と背景)

作例では、上半身、シューズ、ベース(下半身と背景)、背景(人物がいない空絵)の4つのレイヤーに分割して処理しました。
撮影時、背景の空絵を撮影しておくと効果作成時に役に立ちます。

このマスク処理は大変に思われるかもしれませんが、ハイスピードのスロー感を得るには2コマもしくは数コマ程度を使用すればよいので、マスクのフレーム数はそれほど多くなくて済みます。

Twixtorにマスクを読み込む
完成!

マスクの作成は、After Effects のデフォルト機能であるロトブラシツールを使えば、実写素材から比較的簡単に作成できます。
今回は2コマを約3秒のハイスピードに加工していますので、マスクはたった2フレーム分になります。

ロトブラシツールで2フレーム分のマスクを作成したら、アルファチャンネル付きでレンダリングして書き出し、プロジェクトに読み込みます。

破綻した背景
トラックポイントを使用して破綻を防ぐ
トラックポイント(Pro版)

Pro版ではマスク機能に加え、15個のトラックポイントを搭載。前景と背景にトラックポイントを指定できるので、細かな調整が可能。動かなくていい背景を固定することなどに使用できます。
ここではトラックポイントで背景の看板を指定するとモーフィング影響を受けないようにできます。トラックポイントにはキーフレームも設定可能なので、トラッキングデータを割り当てたりと自由度は高いです。

(4) クリエイターズ ビュー/高野さんのTwixtorの活用例(完成ビデオ)

高野さんが解説で使用されている After Effects プロジェクトを配布中! Twixtor の評価用プロジェクトとして解説と合わせてご活用ください。
 Twixtor 作成のコツ

Twixtor は、通常のハイスピード撮影のような全てのコマを高品質のスローに変換してくれる訳ではありません。制作する映像において、ポイントを絞って撮影する動き考えるとよいでしょう。つまりどういう演出にするかを先にシミュレーションしないと失敗します。ハイスピードは一瞬の切り取り、つまり写真的な絵の質感が求められます。ですからシャッタースピードは速い方が良いのです。また、モーフィングするにもブレた絵は使えません。万能ではないが、使い方、アイディア次第でハイスピードのエッセンスを映像に加えることができるのが、Twixtor です。

<制作のヒント!>
・オススメは、重力と反対方向の動き(浮き上がる水の動き、滝などはNG)
・ジャンプの最長点(重力と均衡点)でコマとコマの間に変化が極力少ないもの
・背景は単色が好ましい(青空など)
・使用するコマ数は2フレ!もしくは数フレ(超スローなハイスピード感が得られます)
・被写体がフレームを横切って走る動きなどは弱い

解説:高野光太郎 さんのご紹介
映像ディレクター。アヌシー国際アニメーション映画祭の学生部門入選。ミュージックビデオ、番組オープニングタイトル、立体視映像など、様々なジャンルの映像を演出。撮影・編集・合成・3DCGのワークフローをトータルで考え、カメラやアプリを選択して制作している。Twitterアカウントは@takanok