■#09 Plexus で作る空想のオブジェクト
今回 Plexus は、女性の手元から放たれる光の球、ライトボールの軸を形成するオブジェクトの生成に活用された。このライトボールには、2つの Plexus オブジェクトに加え、Optical Flares、Trapcode Particular、Trapcode Form のプラグインを使って生成された複数のオブジェクトのコンビネーションで作られている。佐藤氏は日頃も、このような空想のオブジェクトを作成する際は、いくつかのプラグインで生成したユニークな形状を自由に組み合わせることで様々なスタイルを生み出しているようだ。
尚、本解説は、佐藤氏の Plexus 活用方法に重点を置いている。Plexus の基本的なパラメーターの紹介、操作方法を確認したい方は【yama_ko 氏によるPlexus 解説】を参照頂きたい。
1つ目の Plexus オブジェクトの生成方法をみてみよう。
新規レイヤーに エフェクト>Rowbyte>Plexus を適用。Plexus Toolkit>Add Geometry>Primitives を選択し、Plexus Primitives Objects を追加する。立方体(Cube)のパーティクルが描画されるが、Primitive Type を Sphere に変更して球体のオブジェクトとする (図1)。
Plexus Toolkit>Add Effector>Noise を選択し、Plexus Noise Effector を追加。Noise Amplitude の値を上げて、オブジェクトを歪ませる (図2)。
Plexus Toolkit>Add Renderer>Facets を選択し、Plexus Facets Renderer を追加。オブジェクトの粒子間に面を形成した (図3)。
更に、Maximum Distance の値を下げて、透明感を出し、Get Opacity over Distance のインジケーターで不透明度を調整する (図4)。
そしてもう一度、Plexus Toolkit>Add Effector>Noise を選択し、Plexus Noise Effector を追加。Plexus Facets Renderer のレイヤーの下に移動し、Effector effects を Faces に変更する。Apply Noise To をColor に変更後 Noise Amplitude の値を上げることで、オブジェクトの色を変化させる (図5)。
デフォルトで追加されるレンダラー、Plexus Points Renderer のチェックを外すと、点の描画が非表示になる (図6)。
オブジェクトのうねるような動きは、Plexus Noise Effector>Noise X,Y,Z Offset の数値をキーフレームでアニメートすることで作成する。これで1つ目の Plexus オブジェクトは完了だ (図7)。
ここに別のエフェクトを加えて、スタイルを更に変化させてみる。今回、活用したエフェクトは、Sapphire の Distort 効果に含まれる Warp Chroma。Warp Chroma は、RGBを分解して前後に移動させるエフェクトである (図8)。
更に、After Effects 既存のエフェクト>色調補正>トライトーンを適用。トライトーンは、ハイライト、ミッドトーン、シャドウの3色を別な色に置き換える効果。ここではミッドトーンをブルーに、元の画像とブレンドを50%で調整した。これで、1つ目の Plexus オブジェクトが完成した (図9)。
尚、この Plexus オブジェクトは、実際は、かなり小さいオブジェクトとして使用している (図10)。このごく小さな大きさの中に、多彩な形状や動きを持たせることが、佐藤氏の繊細な世界観の構築に繋がっていくのだろう。
2つ目の Plexus オブジェクトの生成方法をみてみよう。この Plexus のオブジェクトは、3つの Plexus オブジェクトのレイヤーからできている。その2つは、一つのオブジェクトを複製して色や回転の速度を変えたものだ。この Plexus の形状には、After Effects のマスクが活用されている。Plexus Toolkit>Add Geometry>Paths を選択し、Plexus Path Object を追加。After Effects の楕円ツールで円を生成する (図1)。
プレビュー画面でマスクの選択を外すと、マスクの外縁に沿って Plexus の描画が行われているのが判る。Plexus Path Object>Point on Each Mask の値で描画の点の数を調整する (図2)。Plexus Path Object>Riplication>Total No. Copies を増やし、楕円の描画を複製 (図3)。Extrude Depth 押し出しを0に。X,Y,Z Rotation の Start Angle を調整してより立体的に見せる (図4)。ここにノイズを加えてオブジェクトを歪ませてみる。Plexus Toolkit>Add Effector>Noise で、Plexus Noise Effector を追加。Plexus Noise Effector> Noise Amplitude でノイズの振幅を増やす (図5)。
この時、Use Light for Noise にチェックすると、Plexus のノイズの効果を、After Effects のライトに連動させることができる。つまり After Effects のライトを動かすと Plexus の形状がそれに合わせ変化する。この方法は、オブジェクト全体ではなく、部分的にノイズを掛けたい場合に有効だ。また常にチェックして欲しいのが、Plexus Points Renderer>Points Perspective Aware。このチェックをオンにすることで奥行きが表現できる。オフにした場合、全てのポイントのサイズが共通になるため、奥行きがなくなるので注意が必要だ。
続いて、Add Renderer>Facets を選択し、Plexus Facets Renderer を追加。点と点の間に面を形成する。Plexus Facets Renderer>Maximum Distance の値を上げると、面の領域が増える。更に、Get Color From Vertices のチェックを外し、Facets Color で色を設定する (図6)。
Get Opacity From Vertices のチェックを外し、Facets Opacity で不透明度を設定。Opacity over Distance で Opacity の重なり具合を調整。描くラインによって描画のスタイルを変化できる (図7)。この Plexus オブジェクトに動きを持たせるには、Add Effector>Transform を選択、Plexus Transform を追加する。回転やポジションを自由に調整して、キーフレームでアニメートができる。
この動きをつけたオブジェクトレイヤーを複製、After Effects>エフェクト>色調補正>色相/彩度で、色を変えたオブジェクトを重ねる (図8)。更に Plexus Transform の角度の値をずらしたり、Transform>Scale で大きさを調整することで、新たなスタイルを作ることができる (図9)。もう少し動きにうねりを出したい場合、新たに Plexus Noise Effector を追加する。Plexus Noise Effector> Noise Amplitude を高めた後に、Noise Details>Noise Offset でノイズのスタイルを変化させる。あまり変化させ過ぎるとわざとらしい感じになるので、5とか-5とか緩やかな変化にしてみる (図10)。
Plexus Transform >Scale で全体の大きさを調整し、2つ目の Plexus オブジェクトは完成だ (図11)。
今回のオブジェクトでは使用していないが、ラインを足す場合は、Add Renderer>Lines を選択し、Plexus Lines Renderer を追加する。また違った表現を作成できる (図12)。
※配布する本サンプルプロジェクトは、製品の使用時の参考としてご利用頂けます。複製、及び転用、販売、公開、譲渡などはできません。
左側が、Trapcode Particular や Optical Flares で作成した青み掛かった元のイメージ。右側が、今回、Magic Bullet Looks でカラーグレーディングを行った最終的なイメージだ。
まず、After Effects のレイヤーに、エフェクト>Red Giant Color Suite>Looks を適用。Edit ボタンをクリックして Looks の専用インターフェイスを開く。Looks で一番に注目したいのは画面左側に収納されるプリセット。カーソルを左端に合わせることで表示される。ここにはシチュエーションごとにカテゴライズされた多数のプリセットが標準搭載され、各プリセットはカラーグレーディングを適用したいイメージのサムネールで一覧表示される。そしてクリックすればそのプリセットのスタイルがリアルタイムプレビューされる (図1)。
佐藤氏が、何故 Lookを使うのか? その大きな理由は、このプリセットで、様々な色のコンビネーションを即座に見ることができるためだ。様々なプリセットを一つ一つクリックするだけで、どのような色や質感がよいかを具体的に比較検討できる。佐藤氏は、After Effects の標準エフェクト等を使った色調整も行うが、その途中段階で何も見ずに自分で色づけをするよりも、Looks で様々なサンプルを見ることによって、自分が考えていたスタイルがよいかを判断していくことが多いようだ。
気に入ったプリセットはそのまま使うこともできるが、もちろんカスタマイズも可能だ。プリセットを選ぶと、プレビュー画面の下にそのプリセットのスタイルを構成する様々な設定が表示される。その各設定をクリックすると、それぞれの設定の調整を行うことができる (図2)。
これら設定要素は、画面の右側に収納されており、カーソルを右端に合わせると一覧表示される。この設定は、ダブルクリックしてスタイルに追加できる (図3)。
この追加した設定を選択すると、パラメーターが開き、微調整ができる (図4)。
このように Looks は、プリセットのスタイルに留まらず、オリジナルのスタイルを自由に作ることも可能だ。
一つの映像が、Looks のプリセットを選ぶだけで、様々な世界観を持ち始める。これらの世界観をどのように活用するのか、それは使用するユーザー次第だ (図5、6はプリセットの例)。
最終的にスタイルが決定したら、Finished をクリック(図7)。
After Effects のレイヤーに Looks のスタイルが反映される(図8)。
【The Moment of Beauty】のそれぞれのショットは、この Looks の設定を活用しカラーグレーディング。統一したカラースタイルのアニメーションとして完成させた。
佐藤氏は、日頃この Looks を使って、様々な色味、質感、ぼかし感、コントラスト、明るさなどを比較テストし、イメージを固めていく。この行程から、元々全く想像していなかったような演出に出合ったり、自分が目指していた世界観をより発展させるイマジネーションの構築に役立てているとのこと。
ぜひあなたも、この Magic Bullet Looks のカラーグレーディングからあなたの世界観を紡ぎ出して頂きたい。
※配布する本サンプルプロジェクトは、製品の使用時の参考としてご利用頂けます。複製、及び転用、販売、公開、譲渡などはできません。
■世界観の深み 〜 各章のご案内
本章にて、【世界観を創る!プラグイン活用術・佐藤隆之氏による After Effects プラグイン解説 〜 The Moment of Beauty チュートリアル 〜】は完結する。
これまでの全四章を通した佐藤氏の解説から感じるのは、ある効果を紐解いていくと、一つのオブジェクトが、実は複数の比較的シンプルなパラメーターの設定のオブジェクトを組み合わせて作成しているケースが少なくないということだ。この場合、逆にエフェクトはやり過ぎず、強く主張しない範囲にとどめて作成。そして、大きく作ったものを縮小して使ったりしながら、オブジェクトやアニメーションを根気よく幾重にも幾重にも積み重ねることで、複雑で奥行きのある繊細な世界観が作られている。世界観の深み、それは絶え間ない好奇心と地道な幾重もの積み重ねによって生まれるのかもしれない ───。
第一章 作品と世界観を作るフローの紹介(公開中)
#01:自己紹介/The Moment of Beauty の裏側
#02:ワークフローとスタイルフレーム
#03:制作プロセスと使用プラグイン
#04:世界観を作り上げていく過程/Cinema 4DとAfter Effectsの連携
第二章 粒子で創る世界観(公開中)
#05:Trapcode Particular 佐藤氏の手法 Part1
#06:Trapcode Particular 佐藤氏の手法 Part2
第三章 光と面で世界を彩る(公開中)
#07:Trapcode Mir の面で世界観を彩る
#08:Optical Flares の光で世界観を彩る
第四章 カラーグレーディングによる世界観の選択(公開中/本ページ)
#09:Plexus で作る空想のオブジェクト
#10:佐藤氏が Magic Bullet Looks を使う理由